受験生の睡眠時間はどう考える?公的な目安と現実的な工夫
受験の年になると、家庭の中で睡眠時間の話題が増えます。もう少し寝かせたほうがよいのか、それとも本人にまかせるべきなのか。この記事では、まず厚生労働省が公表している目安を確かめ、そのうえで、その時間が現実の一日に入りきらないときにどう考えるかを、保護者の視点で整理します。
- 厚生労働省のガイドが示す中学・高校生の睡眠時間の目安と、その数字の出どころ
- 目安から逆算して寝る時刻を決める考え方と、時間が足りないときに何を先に守るか
- 思春期に夜ふかしが起きやすい仕組みと、保護者にできること・できないこと
公的な目安は「中学・高校生は8〜10時間」
睡眠時間の話は、家庭の中だけで議論すると「気合い」か「体質」かの水掛け論になりがちです。まず、公的にどう書かれているかを確かめます。厚生労働省が公表している「健康づくりのための睡眠ガイド2023」は年代別に推奨事項をまとめており、「こども版」の推奨事項は次の2行です。
小学生は9〜12時間、中学・高校生は8〜10時間を参考に睡眠時間を確保する。
朝は太陽の光を浴びて、朝食をしっかり摂り、日中は運動をして、夜ふかしの習慣化を避ける。(厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」こども版 推奨事項)
受験生の多くは、この「中学・高校生」に当てはまります。8〜10時間という数字に「そんなに眠れない」と感じた方も多いと思いますが、同じガイドもその点にひとこと添えています。成長期である高校生までは成人よりも長い睡眠時間を必要とすることがわかっており、一般的な認識よりも長い睡眠時間であることに驚くかもしれない、という書き方です。
同じガイドの「成人版」の推奨事項は「適正な睡眠時間には個人差があるが、6時間以上を目安として必要な睡眠時間を確保する」です。大人の目安より中高生の目安のほうが長い。親が自分の睡眠時間を基準にすると、目安を短く見積もることになります。
その数字は、どこから来ているのか
ガイドは、この目安が米国睡眠医学会(American Academy of Sleep Medicine)の推奨に基づくものだと記し、その性格も説明しています。睡眠時間に関する疫学調査や生理研究に基づき、主要な睡眠研究者が各成長時期における心身機能の回復・成長に必要な睡眠時間を見積もったものであり、多くの国で参考にされている、という説明です。
あわせて、年齢別の図には「適切な睡眠時間には個人差があります」という注記が添えられています。8〜10時間は一人ひとりに割り当てられた合格ラインではなく、幅のある目安です。「8時間に届かなかったから失敗」と数える種類の数字ではありません。
ここに書いた数字は、すべて厚生労働省のガイドから転記したものです。それ以外に「受験生は何時間眠るべきか」という判断は示しません。ご家庭ごとの事情に合う時間配分は、この記事の側では決められません。
目安から逆算すると、就寝時刻はいつになるか
ガイドは、時間の決め方の順番も書いています。小学生以降は、早起き習慣を保ったうえで、推奨睡眠時間から逆算して夜寝る時間を決めることをお勧めします、という記述です。つまり「何時に寝るか」を先に決めるのではなく、起きる時刻を先に固定して、そこから引き算する。受験生の場合、起床時刻は学校の始業時刻でほぼ決まっていますから、引き算の答えは自動的に出ます。
| 起床時刻 | 8時間なら | 9時間なら | 10時間なら |
|---|---|---|---|
| 6時00分 | 22時00分に就寝 | 21時00分に就寝 | 20時00分に就寝 |
| 6時30分 | 22時30分に就寝 | 21時30分に就寝 | 20時30分に就寝 |
| 7時00分 | 23時00分に就寝 | 22時00分に就寝 | 21時00分に就寝 |
この表は起床時刻から目安の時間を引いただけの単純計算です。実際には眠りに入るまでの時間もあるので、「布団に入る時刻」はもう少し前になります。
そして多くのご家庭では、この表を見た時点で無理だと分かります。部活動、22時を過ぎる塾からの帰宅、片道1時間の通学。そういう一日に22時就寝は入りません。ここで表を閉じると「うちには関係のない目安」で終わるので、次の節に進みます。
足りないとき、何を先に守るか
先にはっきりさせておきます。ガイドには「削ってよい」とは書かれていません。以下は削った分の埋め合わせではなく、ガイドが「夜ふかしを習慣化させないための工夫」として挙げる項目のうち、勉強時間をほとんど奪わないものです。
- 起床時の日光浴——小学生以降は、登校時や学校で日光を十分に浴びましょう。週末休日も普段と同じ時間に起床して、日光を浴びましょう、と記されています
- 朝食の摂取——朝食を摂らない生活習慣は、朝から午前中に日光を浴びない生活環境と同様に、睡眠・覚醒リズムの後退を促すことが報告されている、としています
- 運動習慣の定着——小・中・高校生は1日当たり60分以上からだを動かし、スクリーンタイムは2時間以下にすることが推奨されている、と紹介しています。ただし就寝前1時間以内の激しい運動は控えたほうがよい、とも
- デジタル機器使用の回避——デジタル機器は寝室には持ち込まず、電源を切って、別の部屋に置いておきましょう、という記述です
ここからは、この記事の側の考えです。上の4つのうち、受験生の一日から時間を奪わないのは起床時刻をそろえることだと思います。勉強時間を1分も削らずに済みます。逆に、休日の朝寝坊で取り返すやり方は、合理的に見えてガイドの記述とは反対を向いています。眠った時間の合計は増えても、午前中の光を浴びない日が挟まるためです。
削る話をするときほど、「何を減らすか」より「何を動かさないか」を先に決めるほうが揉めにくくなります。起床時刻という一点だけは動かさないと決めておけば、勉強量が多い日も少ない日も翌朝の形は変わりません。
夜ふかしは、気持ちの問題だけではない
「早く寝なさい」と言っても布団に入らない。入っても眠っていない。本人の意志の弱さを責める話になりがちな場面ですが、ガイドは別の説明も併記しています。思春期が始まる頃から睡眠・覚醒リズムが後退し、睡眠の導入に関わるホルモンであるメラトニンの分泌開始時刻が遅れることで、夜寝る時刻が遅くなり、朝起きるのが難しくなる傾向がみられる、という記述です。加えて、部活動や勉強、友人とのつきあい、デジタル機器の使用といった社会的な要因も影響するとしています。
そして、朝は学校に遅刻しないよう起床する必要があるので睡眠不足になりやすく、睡眠負債が蓄積しやすくなる、と続きます。学校のない休日はその睡眠負債を解消するために起床時刻を遅らせることになり、午前中の時間帯に日光を浴びることができず、睡眠・覚醒リズムは後退しやすくなる、という流れです。ガイドは、思春期以降、社会人になるまでの時期は、もっとも夜ふかし、睡眠不足、休日の朝寝坊が生じやすくなるとまとめています。
受験生は、この「もっとも夜ふかしが生じやすい時期」に、勉強という夜の予定が上乗せされた状態にあたります。夜ふかしを本人の性格の問題として片づけなくてよい、という材料になるかもしれません。
もうひとつ、ガイドが書いていることを正確に伝えておきます。夜ふかし・朝寝坊の習慣が長く続くと、朝起きることが難しくなり、遅刻が増加したり、登校が困難になったりすることもある、としたうえで、その場合はできるだけ早く医師に相談することが重要だと明記されています。家庭の工夫の範囲を超える場面がある、ということです。
保護者にできること、できないこと
ガイドは、保護者の関わり方についても一文を割いています。この時期から、夜寝床に入るタイミングを自ら調整するこどもが増えるが、友達との交流や遊びの時間について、十分な睡眠時間が確保できるように設定するよう親が援助することが望ましい、という書き方です。「寝かせる」ではなく「時間の設計を手伝う」に近い言い方になっている点が、実際的だと思います。ここから先は、この記事の側の整理です。
時間を取られずにできること
- 朝、カーテンを開ける時刻・声をかける時刻を毎日そろえておく
- 休日も、平日と大きく変わらない時刻に一度起こす(そのあと二度寝するかは本人にまかせる形もあります)
- 朝食をすぐ食べられる状態にしておく。時間がない朝でも、席に着けば口に入るものがあるかで変わります
- 廊下やリビングの照明、テレビの音量など、本人が動かせない夜の音と光は家庭の担当です
- 「早く寝なさい」の代わりに、前の節の逆算表を一緒に眺めてみる。結論より、起床時刻から引き算する考え方のほうが残ります
手が届かないこと
眠るという出来事そのものは、外から指示して起こせるものではありません。布団に送り出すところまではできても、その先は本人の身体の側で起こります。ここを混同すると「寝なさいと言ったのに寝ていない」という叱り方になり、夜の時間が気まずくなります。目安の数字を突きつける関わり方も、かえって夜の気がかりを増やすことがあります。数字は責める材料ではなく、逆算のための材料として置いておくくらいがちょうどよいのかもしれません。
眠る前の時間を、どう過ごすか
最後に、布団に入ってからの時間についてです。ガイドの記述をそのまま置きます。デジタル機器は寝室には持ち込まず、電源を切って、別の部屋に置いておきましょう、という一文です。
スマートフォンで音を流しながら眠る過ごし方は、この記述と正面からぶつかります。矛盾を隠さずに書くと、次のような使い方に限れば、少なくとも「画面を見続ける時間」は増えません。
- 音を流し始めたら画面を伏せ、手の届かない場所に置きます
- 音を止めるために起き上がらなくてよいよう、時間がきたら自動で止まる設定にしておきます
- 音量は「聞こえるか聞こえないか」くらいまで小さくし、途中で大きく変化しない音を選びます
- イヤホンで長い時間流すときは、音量と耳への負担に気をつけます
- 通知は切っておきます。連絡が届く状態のままでは、機器を寝室から出す意味が薄くなります
どんな音があるかは眠るための音の図鑑に、数えて過ごす方法については羊を数えても眠れないのはなぜにまとめています。眠りについて気になることがあるときは、公的機関の情報にあたるのもひとつの方法です(ページ末尾の「出典・参考」をご覧ください)。
よくあるご質問
睡眠時間を削って勉強するのと、早く寝て朝にまわすのと、どちらがよいですか。
どちらがよいかを一般論として決められる材料を、この記事では持っていません。参考になるのは公的な目安のほうで、厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」のこども版は、推奨事項として「小学生は9〜12時間、中学・高校生は8〜10時間を参考に睡眠時間を確保する」と記しています。睡眠時間を削ることをすすめる記述は、このガイドにはありません。
休日にまとめて眠って取り返すのはどうでしょうか。
同ガイドのこども版は、夜ふかしを習慣化させないための工夫として「週末休日も普段と同じ時間に起床して、日光を浴びましょう」と記しています。休日に起床時刻を遅らせると午前中の時間帯に日光を浴びることができず、睡眠・覚醒リズムは後退しやすくなる、という説明も添えられています。
朝どうしても起きられない日が続いています。家庭で様子を見ていてよいでしょうか。
同ガイドは、夜ふかし・朝寝坊の習慣が長く続くと、朝起きることが難しくなり、遅刻が増加したり、登校が困難になったりすることもあるとしたうえで、できるだけ早く医師に相談することが重要だと記しています。家庭の工夫だけで抱えこまず、医療機関にご相談ください。
出典・参考
- 厚生労働省 健康づくりのための睡眠ガイド2023(PDF)/本文中の数値・引用は「こども版」(本文15〜16ページ)および「成人版」(本文11ページ)より
- 厚生労働省 睡眠対策
- 厚生労働省 e-ヘルスネット 健やかな睡眠と休養
ご注意
この記事は一般的な情報をまとめたものであり、病気の診断・治療・予防を目的としたものではありません。アプリ「ひつじの添い寝」は医療機器ではなく、症状の改善や治療を行うものでもありません。
眠れない状態が続くとき、日中の生活に支障が出ているときは、ひとりで抱えこまず医療機関にご相談ください。